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営業秘密(トレードシークレット)とは不正競争防止法に定義づけされている用語です。
まずは下の美容院での事例を御覧ください。
ある美容院のオーナーであるAさんは、日々困っていることがありました。
それは、従業員を育てることです。理想としては従業員を育て、ゆくゆくはお店を任せられる店長になってもらい、自分は経営者として多店舗展開をしていきたいと考えていたのですが、その店長まで育てている道中でいつも問題がおこっていたからです。
それは、店長に育てるまでに従業員が辞めてしまうことが少なくなく、それでもまだ辞めるだけなら根気強く次に行けばよいのですが、辞めた元従業員がAさんにとって脅威なことをしていくのでした。つまりは辞めて独立して、それまでの美容院のお客さんまで持って行く例が少なくなかったからです。
もちろん、美容師など個人にお客さんが一種のファンとなって、お店と言うよりはその一美容師についていく職業であるとはAさんも認識していますが、とはいってもその人気美容師に育てていたのは、うちの美容院であることも事実で、それを裏切る形で独立されるのには、怒り、諦め、人間不信に陥ってしまっていたのでした。
「これは何度やっても、裏切られるだけではないか」と意気消沈することも少なくありませんでした。
また、独立するのはまだ許せても、うちのお客さんを誘引するのはアウトで人間としてもやってはいけないのではないか、筋違いではないと何かもやもやする日々でした。
辞め方にも不満をもっていました。堂々と「独立したいから辞めます。」と言ってもらえばまだ潔く良い方ですが、ほとんどが、嘘の言い訳でした。故郷に戻らないといけないからとか、親の面倒をみないといけないからとか、etc
それを最初の内は信じていましたが、そういった数か月後には隣の町で、独立して店舗を構える者もいたからです。
そんな愚痴のような相談ごとをされたM行政書士は、その話を聞いて一言「Aさん、その悩みは(ある法律を利用すれば)解決できますよ。」と言いました。Aさんは仰天一瞬耳を疑いました。
「本当ですか?!是非、その方法を教えてもらえないですか?」
という話はどの業界でもあることかと思われます。
この対策として従来からの方法としては「競業避止義務」というものがあり、辞める際はこの競業避止義務の契約をしてやめてもらうぐらいしかなかったと思われます。
しかし、この競業避止義務にも限界があります。それは一生同じ業務の仕事をするな、とは憲法の職業選択の自由に抵触することで言えないことです。また、判例的にも要件を満たさないとなかなか認めてもらえないということがあります。
競業避止義務とは、使用者と競業関係に立つ企業に就職したり、競業関係に立つ事業を開業したりしない義務のことをいう。
一般には、被雇用者が退職して競合業務に従事することは、職業選択の自由に属し、何ら妨げないとされているが、一定の合理的な範囲(制限する期間、地域、職種が限られている、制限する合理性が比較的高い、代償措置も必要(在職中機密保持手当等))においては、退職後の競業禁止の特約は有効と認められる。
判例でも、
といった項目について判断を行なっており、規定自体の評価及び当該競業避止義務契約の有効性判断を行なっている。
従って、本当に心無い従業員や、産業スパイ等への対策としては不正競争防止法に基づく営業秘密の管理体制を整えるしかないのだろうと考えます。
もちろん営業管理体制を整えれば100%情報漏えいを防げるというものでもありませんが、何も対策を講じないよりははるかに良い影響を及ぼすことには間違いがありません。
冒頭の美容院の例示のケースでは、
「顧客リストを営業秘密として管理します。」
営業秘密で保護される管理体制を構築することで、顧客リストに記載されている顧客情報の取扱いが保護され、辞めていった元従業員が勝手に独立する際の営業顧客リストにはできなくなります。
仮に一人二人ぐらいの顧客とは個人的に友達になっていて連絡がとりあえる仲になっていることはあるかもしれませんが、10人、20人以上規模の当該美容院の顧客へアプローチするためのリストがないのでアプローチできるはずもありません。
その顧客リストそのものを在職中にコピーでもして持ち帰ることでもしようなら、営業秘密侵害罪として10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金ということで訴えられかねません。
こういう営業秘密管理体制を行うことによって、美容院の大事な顧客リストをしっかり保護する意識が従業員にみにつきますし、独立したい従業員がいたのなら、嘘の言い訳で辞めて独立しよう、何人かのお客も奪い取ってやろう、という気持ちの従業員は確実に減ることであろうと思います。
民事責任(お金の問題)ならまだしも、刑事事件になる恐れのあるリスクは負いたくないということもありますから。
そして、正々堂々と独立したい宣言を言って筋を通して辞めていくなら、経営者であるオーナーも日程の調整はお願いしたうえで、頑張ってくれて美容院に貢献してくれた従業員なら気持ちよく送り出してあげても良いとおもうでしょう。
ましてや何人かお客さんを紹介してくれる、引き渡してくれるかもしれません。
オーナーは営業秘密管理体制を構築、維持することで安心して従業員教育をして店長を誕生させ、次々と多店舗展開の仕事に邁進できるはずです。
上記の全ての項目が必須となります。どれかが欠けても営業秘密で保護できなくなります。
営業秘密の定義をふまえ、何を会社の一番の営業秘密と定義して保護体制の構築とするか?
会社の特徴、個性、一番大事な会社の肝、売上の源泉、これがあるから貴社のビジネスが成り立っている大事なコンテンツはなんですか?
現状、その大事なものは誰が(どの部署)、どのように管理しているか把握していますか?
ただし、丸投げはいけない。形式だけ整えても管理している実態がなければ営業秘密として保護されず、意味がなくなる。最低でも取締役が指揮を司るようにする。
秘密管理としては以下の項目を徹底管理していくことになります。
特に人的管理は重要で従業員への周知、教育が欠かせません。
そのお店は、メイン食品の人気が高く常に来客が絶えないお店でした。
そのメイン食品の隠し味(スープ)がなんともいえない味を醸し出し、それが売りとなっていました。
オーナー自身がそのスープソースを朝早く従業員が出勤してくる前から毎朝一人で仕込みます。誰に任せることもなく。
それには訳がありました。他の従業員にはそのスープの調合(配合)の仕込み現場を見られたくなかったからです。
秘伝スープというぐらいですから、そうやすやすと隠し味のスープ作りを教えるわけにもいかないのです。
もし軽々しく教えて、そのレシピをもって独立されたときにはライバル店を生み出すことになり、死活問題。
この売り上げの源泉となっている秘伝のスープができるまでにどれだけの時間と試行錯誤というオーナー自身の努力があったのかは計り知れません。
それを簡単に横取りされるわけにはいきません。
しかし、上記の現状であったそのお店も繁盛しすぎて、そろそろ2号店の出店そして多店舗展開をしていきたいとオーナーは考えるようになってきました。
ただ一つ心配なことは、多店舗にするということは、今までの様にオーナーが自分一人で各店舗の秘伝のスープを作るには限界があるということでした。
大手の食品チェーン店ぐらいになれば、センターキッチンの設備をもってスープ作り、各店舗に毎朝配送するということもできるのかもしれませんが、今はまだそんな設備投資ができるほどの売り上げはもちろんありません。
そうすると、やはり各店舗の店長とさせる従業員に秘伝のスープレシピを教える以外に多店舗展開の進展は考えられないことになってしまいます。
そこでオーナーは考えました。
今の従業員を信用していないわけではない、ただしかし、今までも信用していた従業員に裏切られて辞めていった者も数多し、秘伝のスープレシピを教えた従業員がもし、気が変わって途中に辞めてしまったら。。。と考えるとどうしても次の一歩踏み出せない思いになっていました。
そうであれば、もし秘伝のスープレシピを教えた従業員がやめたときには損害賠償金として5千万円(ぐらい)を支払え、というような誓約書をとれないものかと考えるようになりました。
お店の現状の売上から言って、事業自体を売却すればそのぐらいの値段はつくはずだから、従業員が辞めるならそれと同等ぐらいの金額を請求しても問題はないだろうと考えたのです。
でも正直なところそんな金額を辞める従業員から貰おうなんて思ってはいないのですが、そのぐらいの厳しさを承諾してくれる従業員でもないと秘伝のスープレシピを教えられないし、秘伝スープレシピが守れないのではないかと考えたのでした。
そこで、その一連のことをM行政書士に相談したところ、
オーナーが考えていた
「誓約書をとって途中辞めたものに5千万円ぐらいの損害賠償を要求する」
というアイデアは、
「労働基準法上問題があると思われ、その誓約書自体が法的には無効となり意味がないものと考えられます」
ときっぱりと言われてしまい、意気消沈するのでした。
※(参考)労働基準法第16条:使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
しかし、すぐにM行政書士から、今のオーナーの思いを実現するには、不正競争防止法に基づく営業秘密を「秘伝のスープレシピ」と指定し、その営業秘密管理体制を会社で構築すれば、秘伝のスープレシピも漏洩防止ができると思いますよ、といってもらいました。
オーナーにとっては、その営業秘密管理体制を構築して多店舗展開を思う存分にやってやろうという前向きな希望を持てることが出来たのでした。
END...。
さて、上記なようなケースでも営業秘密を活用できるのです。
秘伝スープレシピを知った従業員が退職しても、基本的には秘伝スープレシピをオープンにすることができません。
世間一般において、こういったレシピで世界的に有名な企業があります。
コカ・コーラ社です。コカ・コーラのあの味(ソース作り)の配合は営業秘密になっていますので、特許などとちがい(特許の場合は原則20年でオープンになります)、情報漏えいし、公知とならない限り、半永久的にコカ・コーラのあの味(のソース)は他社が真似をしたくともレシピが営業秘密となっている以上できないことになっています。
あなたのお店の秘伝ソースは守られていますか?
営業展開していく上で、誰しもが知っている営業手法で展開していても、実はその手法を何通りかの組合せをして総合的に展開することはあります。実はその総合に展開していくところがその会社の独特のノウハウになっていることがあります。
例えばA、B、C、Dという部門の営業手法があっても、これをうまくかけ合わせたり、足したり引いたりしているうちに、その会社の独自の方法になっているということです。
ひとつひとつの部門の営業手法は特別ではないのですが、ミックスすることでロスがなくなり、また逆にビジネスがアップしていったりして、そのミックスされ醸成された仕組み(スキームやシステム)自体が知らず知らずに営業秘密になっているのです。
例えば、A部門だけに勤務していた辞めた元社員・アルバイトがA部門の営業手法をマネすることができるかもしれませんが、それをその後の他方の部門とミックス展開するノウハウを営業秘密にしていれば、その他の手法は知りませんし、わからないことです。
B部門だけに勤務していた辞めた元社員・アルバイトも同じく、辞めてB部門の営業手法はマネできるかもしれませんが、A部門もC部門、D部門の営業手法もどんなことをしていたのかはわからないのです。
各部門と融合する部分がその会社の売上の源泉になるシステムになっているので、単体部門の営業手法を例えマネされても会社自身の営業システム自体のマネはできず大事には至りません。ここを営業秘密にすべきであると考えます。
ただ、A部門、B部門、C部門、D部門をどこでも行ききできるのは役員、責任者以上の者で、そのシステムを把握しています。むしろ、このような形態であると各部門の責任者、取締役等のシステムのノウハウを知る者に対して営業秘密を意識させ守らせることが肝要です。
こんなことは、会社自身が独自のノウハウを作り上げてきたことを営業秘密と考えることなく案外重く受け止めていないで営業展開していることも考えられますので、ひとつ自身の会社の営業ノウハウを客観的に見てみて判断することが必要なのかもしれません。
実は素晴らしいノウハウを持っていることすら自覚しておらず、みすみすその独自の営業秘密にすべき大事なものを簡単にマネされることになりかねません。
ご自身の会社にその様に気づいていないノウハウがあるのではないですか?!
まずは会社のシステムを整理・整頓してみて営業秘密で固めてみては?
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