事業譲渡と株式譲渡の違いって?目的に応じてうまく使い分けよう!

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事業譲渡と株式譲渡の違いって?目的に応じてうまく使い分けよう!

事業譲渡も株式譲渡は、いずれも企業のM&A(買収と合併)でよく用いられる手段です。

しかし、「どんな理由で」「何をするのか」には大きな差があります。

1.事業譲渡とは?

事業譲渡とは、会社の一部の事業を売却することです。

つまり、一部の事業に関連するヒト・モノ(商品・工場)・権利(取引先)などをまとめて売るのを指します。

1-1.事業譲渡のメリット

事業譲渡のメリットは、以下の通りです。

1-1-1.主要事業に集中できる

事業を売る側=売却側は、不要な事業について事業譲渡を行うことで、主要事業に経営資源を集中させることができます。

1-1-2.必要な事業のみの獲得

一方、事業を譲り受ける=買収側は、必要な事業および関連するヒト・モノ・権利だけを選んで買収できます。

買収とは違い、会社を丸ごと買わなくてもいいため、(買収に比べれば)少ない資金で実行可能です。

1-1-3,リスク回避

一般的に、事業譲渡の場合、売却側が持っている債券・債務は、買収側に自動的に移転するわけではありません。

なお、売却側が債権・債務を移転する条件で交渉を進める場合もあります。

1-2.事業譲渡のデメリット

一方、事業譲渡にはデメリットがあります。

1-2-1.手続きが煩雑

売却側が事業譲渡を実行する際には、株主総会の特別決議が必要になります。

つまり、

  • 議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席する
  • 出席した当該株主の議決権の3分の2以上の賛成

の条件が満たされないと、事業譲渡自体ができません。

条件を満たせるように手続きを進めないといけないため、時間もかかるうえに、手続きも煩雑です。

また、買収側にも、事業譲渡が成立したらやるべきことがあります。

買収した事業の従業員や取引先について、契約を結び直さなくてはいけません。書類の作成や発送、確認作業など、やるべきことがたくさん出てくるため、やはり時間がかかります。

1-2-2.事業に制限がかかる

仮に、事業の売却側が、売却したのと同じような事業を1から始めたとしたら、買収側にとっては強力な商売敵になります。

このように、商売敵になる=競業を防ぐため、売却側には競業菱義務が課せられているのです。

つまり、同一市区町村及び隣接市区町村内にて、一定期間事業譲渡をしたものと同様の事業はできません。

なお、一定期間についてですが、当事者間での別段の意思表示がない限りは、20年です。

売却側になる場合は、売却後の事業をどうするかも考える必要があります。

1-2-3.許認可は譲渡できない

また、許認可が必要な事業を譲渡する際は、買収側にその許認可を引き継ぐことはできません。

つまり、買収側が改めて、許認可の手続きをしなくてはいけないのです。

万が一、買収側において許認可の手続きが頓挫した場合、買収した事業が行えないので、十分注意しましょう。

1-3.事業譲渡で発生する税金

事業譲渡を行う場合、売却側と買収側のいずれも、税金を支払わなくてはいけません。

1-3-1.売却側

こちらの表が、売却側が支払わなくてはいけない税金です。

税金 税率
売却側税務 法人税(法人事業税+法人住民税) 税引前利益の約40%
消費税 課税資産の売却金額に対して8%

まず、法人税(法人事業税+法人住民税)ですが、売却額と譲渡資産の簿価の差額に対して課されます。

差額がプラスだった場合、そのまま法人税率をかけた金額が支払うべき税金です。

一方、差額がマイナスだったり、会社自体が赤字だった場合は、そのマイナスや赤字の法人税金分は差し引かれる仕組みです。

しかし、消費税については、差額がマイナスだった場合でも、課されます。

なお、消費税の場合、課税の対象となる資産とならない資産があるので、区別をしておきましょう。代表的なものは、次の通りです。

課税の対象となるもの 課税の対象とならないもの
・土地以外の有形固定資産
・無形固定資産
・棚卸資産
・営業権(のれん代)
・土地
・有価証券
・債権
1-3-2.買収側

一方、買収側には、このような税金が発生します。

税金 税率
買収側税務 消費税 (消費税は売却側と同様)
不動産取得税 土地、建物を取得した場合、固定資産税評価額の4%
登録免許税 土地は固定資産税評価額の2%(2019年3月31日までは1.5%)
建物は固定資産税評価額の2%

消費税に関しては、売却側から請求されるので、そのままの額を支払わなくてはいけません。

また、売却側からの取得資産に不動産があった場合、その分についての不動産取得税と登録免許税がかかります。

2.株式譲渡とは?

株式譲渡とは、株主が会社の株式を売却し、新しい法人の会社に会社の所有権を移転させることを指します。

中小企業で、経営者が個人で株主を兼ねていた場合は、所有権に加えて経営権も移転するので覚えておきましょう。

なお、株式の売却の対価は、株主が受け取ります。

参考:株式譲渡とは?

2-1.株式譲渡のメリット

株式譲渡にはどんなメリットがあるのでしょうか。

2-1-1.会社を存続させられる

あくまで、株式譲渡の本質は「会社の所有権の移転」です。

つまり、株主が代わるに過ぎないので、会社を存続させられます。

また、最終的には新しい所有者になった側が決めることですが、社名も残せるのです。

「社名を残したいけど、後継者がいない」と悩んでいる場合、株式譲渡は有効な手段になるでしょう。

2-1-2.株式保有率は調整できる

株式譲渡においては、株式を全部譲渡しなくてはいけないわけではありません。

3分の1以上の株式を保有し続けていれば、株主総会における特別決議を単独で否決できます。

「経営に対する影響力は残したい」場合は、株式保有率の調整でカバーしましょう。

2-1-3.引退後の生活資金にできる

中小企業かつ経営者個人が株主というパターンでは、経営者個人が株式譲渡による株式の売却益を手に入れられます。

所得税や住民税の課税はされるものの、まとまったお金が手に入るので、引退後の生活資金にできるでしょう。

2-1-4.許認可の引き継ぎができる

先ほども触れましたが、株式譲渡は「会社の所有権の移転」にすぎません。

会社はそのまま存続するため、許認可を再取得する必要もないのです。

2-2.株式譲渡のデメリット

一方、株式譲渡にはデメリットもあります。

2-2-1.株式の取得が大変

株式譲渡においては、譲渡する株式を実施前に集めなくてはいけません。

しかし、中小企業においては、株券・株主に関する情報が書面やデータで残っていない場合も多々あります。

経営者が記憶しているだけというのも珍しくありません。

このような場合、「誰が株主なのか」を洗い出さなくてはいけないため、非常に手間がかかります。

2-2-2.債務・負債は引き継がれる

株式譲渡は、本質的には「会社の所有権の移転」であるため、会社が保有している債務・負債も引き継がれます。

簿外債務や賠償金など、「支払う義務があるもの」が広く含まれる点にも注意しましょう。

2-2-3.ある程度の資金が必要

事業譲渡が会社の一部の事業を譲り受けるものであるのに対し、株式譲渡は会社をまるごと譲渡するものです。

当然、事業譲渡よりは多額の資金が必要になります。

2-3.株式譲渡で発生する税金

こちらが、株式譲渡で発生する税金を表にまとめたものです。

税金 税率
売却側税務 所得税 所得税+法人税で、売却益に対しておよそ20%
住民税
買収側税務 なし

中小企業における株式譲渡の場合は、買収側に経営者が株式を売却するケースが大半です。

この場合、個人たる経営者が株式を売却したにすぎないので、所得税と住民税が課されます。

一方、買収側には、特に課税されることはありません。

3.事業譲渡と株式譲渡を比較しよう

ここまでの内容を踏まえて、事業譲渡と譲渡を比較してみましょう。

3-1.当事者は誰?

事業譲渡の場合、会社=法人同士で行われますが、株式譲渡の場合は、株主(経営者)と法人で行います。

3-2.何を譲渡する?

簡単にまとめると、事業譲渡で譲渡するものは「事業に必要なヒト・モノ・権利」です。

一方、株式譲渡で譲渡するものは、「会社の所有権」です。

3-3.譲渡の順番は?

事業譲渡と株式譲渡について、両者の流れを比較してみましょう。

事業譲渡 株式譲渡
事業譲渡契約締結
→株主総会決議
→譲渡効力発注
→資産引渡し・代金受渡し
株式譲渡契約締結
→取締役会承認
→名義交換手続・代金受渡し

3-4.譲渡する理由は?

どんな理由が背景にあるかによって、事業譲渡と株式譲渡のどちらを選ぶかは異なります。

<事業譲渡の場合>
売却側の理由 買収側の理由
・不採算事業だけ手放したい
・本業ではないが収益性の高い事業を売り、
本業に回せる資金を増やしたい
・売却側の持っている一部の事業だけが欲しい
・会社の負債を引き継ぐのが嫌だ
・会社全体を買うには資金が足りない
・売却側の簿外負債が大きく、会社全体を買うのはハイリスクすぎる
<株式譲渡の場合>
売却側の理由 買収側の理由
・後継者がいないので、会社経営を誰かに引き継ぎたい
・会社の株式を売り、引退後の生活資金にしたい
・会社の債務保証から解放されたい
・株式譲渡で得た資金で、新しい事業を始める
・売却側が持っている資産、人材、許認可などを一気に
手に入れたい会社の負債を引き継ぐのが嫌だ
・事業規模が小さいので、すべてを買収してもそれほど資金はかからない

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